こちらのサイトでは水に関わるエピソードをお伝えしています。

バックナンバーへ

page5

 アメリカ、ロシア、イギリス、そして日本。世界各国が力を注ぎ、南極の氷床を掘削する理由は何か?
 その背景には3つの大きな目的がある。ひとつめは未知なる生命体の調査のためだ。外界と数千万年もの間、氷の“屋根”で隔離された氷床下湖には少なくとも現代の人類が知り得ないバクテリアが存在している可能性が高い。もしかするとそのバクテリアが人類に恩恵をもたらす可能性だってある。ふたつめは地球の過去を知る手掛かりを得るためだ。例えば今から約80万年前までは、地球のN極とS極は逆を指していた。80万年前に今の状態にひっくり返ったのだ。その時、地球に何が起こったのか。南極の分厚い氷床の奥底には、80万年前に形成された箇所もある。その部分を選択的に抽出して解析すれば、何らかの情報が得られると考えられている。
 またここ数十万年は氷期と間氷期のサイクルが10万年単位で繰り返されている。しかし80〜100万年前は4万年周期だったと判明している。では、その周期変化には何が影響したのか。その情報も当時の氷を解析すれば見えてくるらしい。だから今、各国が1000万年以上の歴史を持つ氷床を獲得しようと躍起になっているのだ。そして3つめの目的は非常に壮大だ。行き着くところは、地球外生命探査のためである。南極での氷床掘削は、やがて地球外で行われるであろう氷床掘削調査のプラクティスも兼ねている。南極で経験を重ね、技術を磨き、近い未来にエウロパ(木星の衛星)にある氷の下の海にもアプローチする。これをロシアやアメリカ、イギリスは見据えて技術開発を行っている。
 氷河の研究の先には、さまざまな夢やロマンがたっぷりとつまっている。これから先、世界に点在する氷河や氷床が、私たちに何を教えてくれるのだろうか。

木星の衛星エウロパ

“氷衛星”と呼ばれる木星の衛星エウロパの表面は、厚さ5000?1万mの氷が覆っており、その下には水深50〜100kmの海があるとわかっている。将来的にはこの氷を掘削し、海の中から未知の生命体が発見されるかもしれない

参考資料・図版提供:伊村智(国立極地研究所)

  • 世界三大氷河は、(1)南極大陸(2)グリーンランド(3)ロス・グラシアレス(アルゼンチン)である
  • 氷河の定義は、氷床が観測できる限り流動していればよい。速度はまったく関係ない
  • オーストラリアの2倍もある南極大陸を覆う氷床は、世界の淡水の70%を蓄えている
  • 氷河を融かすと超純水が得られるが、あまりにもミネラル分を含まないため、人間が飲むと体によくない
  • 氷河の動きのおおもとは、高所から低所への重力による影響のほか、氷の重さによって塑性変形が起こり、その影響でも流動する
  • 氷河と流氷の違いとは、氷河は降雪が長年かけて固まったものであり、流氷は海水が凍ったものである
  • 氷河が青く見えるのは、氷の中に含まれる気泡が少なく透明度が高いため、太陽光の赤い波長を多く吸収し、逆に波長の短い青い光だけを反射させるからだ
  • 世界最大の氷河・氷床を有する南極は、砂漠よりも降水量が少なく、非常に乾燥している
  • 氷河の上に黒っぽい汚れが一か所に集まると、そこだけ太陽光が集中して氷を融かし、円柱状の水溜りができる。これを「クリオコナイトホール」と呼ぶ。微生物の生息場所になることもある
  • 氷河や氷床が急に亀裂を生じ、その際に発生する地震を「氷震」または「氷河性地震」という
  • 氷河は温暖化で減少しているかというと一概にそうとも言えない。減少している地域もあれば、厚みを増している氷河もある
  • 氷の温度が融点(0℃)にある氷河を「温暖氷河」という。少しずつ融ける傾向にあるため、氷河が存続するには降雪が多くなければならない。例えば南米大陸のパタゴニア氷河は温暖氷河に属する
  • 日本の南極観測のベースである昭和基地は、南極大陸の上にはない。大陸から5kmほどにあるリュツォ・ホルム湾に浮かぶ東オングル島にある。1957年に開設された
  • 日本南極観測隊が、内陸に設置した基地が「ドームふじ」。富士山と近い標高3810mにあることからその名がつけられた。昭和基地からは約1000km離れている
  • 氷山とは、氷河の端が割れて海に流れ出た大きな氷の塊。観測史上最大の氷山は、2000年3月に南極のロス棚氷から分離したもので、長さ295km、幅37km。大きさは島根県と鳥取県をあわせた面積に相当する1万1000㎦だった
  • 氷床を掘って採取した氷床コア(氷柱)に含まれる酸素、水素、メタン、二酸化炭素、あるいは火山灰やエアロゾルの含有量などから、過去の気候環境を推測できる
  • 最新の大きな氷河期は今から1万年前に終わっており、ちょうどその頃は地表の約30%が氷で覆い尽くされていた。現在予測されるサイクルでいえば、そう遠くない将来に次の氷河期がやってくる
  • 暑い地域と考えられているアフリカにも氷河はある。アフリカ大陸最高峰、標高5895mのキリマンジャロにあるが、最近この氷河は消滅の危機にあると報じられている
  • 氷河の氷を飲み物に入れるとパチパチと音がする。長年の強力な圧力によって圧縮された空気が、氷の融解と共に勢いよく放出されるからだ
  • 火星にも氷河が発見されている。南北両半球に帯状に伸びている。この氷の量は、仮に1mの厚さに引き延ばしたら、火星全球を覆い尽くす量になる

(C)Copyright 2009 WATANABE PIPE, INC. All rights reserved.