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10月中旬に撮影された御前沢氷河。
カール(氷河の浸食で削られた谷)に沿って延びた氷河だ。
氷河の流動速度は年間20cmとかなり遅い

小窓氷河でGPSを使い流動観測を行った。2011年の観測では、1か月で最大32cmの流動が見られた。
秋になるとクレバスといった氷河特有の地形が表出する

三ノ窓氷河でアイスレーダーを使い、氷厚を計測。
2011年の調査では、厚さが70m、長さ1200mに
達する日本最大規模の氷体であると判明した

剱岳西面に位置する池ノ谷右俣雪渓は、長さ1000m、幅50m、
標高1900〜2300mを数える。下流部に厚さ50mの氷体を擁し、
1か月で15cmほど流動していることから、
氷河である可能性が高いと見られている

氷河に必要な条件が揃った地域

 2009年、地理学の常識をひっくり返す大発見があった。富山県の立山連峰に、氷河が存在していたというニュースが駆け巡った。調査の結果、まぎれもなく氷河であることがわかった。
「これまで日本に一番近い氷河は、ロシアのカムチャッカにあるといわれてきました」と富山県立山カルデラ砂防博物館の福井幸太郎さん。彼こそが立山の氷河を発見・特定し、現在も調査を続けているメンバーのひとりである。「南極に比べれば歴史はかなり浅いと思われますが、氷河の定義において歴史の古さは関係ありません。それでも雪が氷になり、氷河として流れ始めるまで最低でも100年の時間が必要です」
 実は約1万年も時代をさかのぼれば、国内にも日本アルプスや日高山脈などに約400もの氷河が形成されていたという。今から約1万年前は氷河期の最終期にあたり、地球全体の気温が現在よりも5〜7℃低かったそうだ。しかし氷河期が終わり、気候が温暖になったために日本の氷河は消滅した。そう考えられていた。
「立山は氷河を形成するための必要な条件が2つ揃っています。気温と降雪量です。富士山や大雪山に次ぐ気温の低さに加え、富士山や大雪山の2倍以上の降雪量を誇ります。それゆえ雪が通年融けきらないのです。氷河がある場所は、少なくとも100年雪と氷が残ったままです」
 現在立山連峰で氷河と断定された場所は3か所ある。まず標高2999mの剱岳北部の小窓氷河、同じく東部の三ノ窓氷河だ。もうひとつが立山の主峰・雄山東部にある御前沢氷河である。
 三ノ窓氷河は長さ1600m、幅100m、標高1700〜2400m。小窓氷河は長さ1200m、幅200m、標高2000〜2300m。そして御前沢氷河が長さ700m、幅200m、標高2500〜2800mというスケールだ。
「三ノ窓と小窓は1か月間で約30cm流動しています。御前沢は1年間でわずか20cm前後しか動かないのですが、少しでも流動が観測できる限りは氷河に分類されるんです」
 立山連峰には他にも未発見の氷河があると推測されている。発見された3つの氷河の時代判定も含め、まだ調査は始まったばかりだ。いずれにせよ日本にも氷河がある、そう認識を改めておかなければならない。

福井幸太郎

富山県立山カルデラ砂防博物館 学芸課主任学芸員。理学博士。氷河と凍土の研究が専門。かつては日本南極地域観測隊の隊員としても活躍。現在は立山の氷河の調査を行っている。「国内の氷河を極めていきたい」と語る

図版・写真提供:福井幸太郎(富山県立山カルデラ砂防博物館)

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