1960年代から、ロシア(旧ソ連)のクラスノヤルスクに設立した閉鎖実験施設内で、食糧・酸素・水を自給する実験が行われた。1970年代には高等植物による食糧供給を目指し、施設内に3人が4〜6か月間滞在した。施設では小麦、野菜、果物を栽培し、食糧自給率は約80%を達成。酸素と水については100%を達成している。人間が排泄した「大」は乾燥させて燃やし、植物を育てるための炭酸ガスとして再利用し、「小」は肥料に活用した。この間、実験にのぞんだ被験者の健康状態は良好だった。ひとつの成功例だといえよう。ちなみに居住空間は、写真のとおりお世辞にも快適とは言い難いものだった。
1990年代初頭、アメリカ・アリゾナ州のツーソンに民間企業が43億円の巨額を投資し、大規模な閉鎖実験施設を建設。1991年から93年にかけて、男女8人が居住実験を行っている。施設内は居住区の他に、人工の海(最深7m)や熱帯雨林(高 さ28m)、砂漠などが作られた。居住区はホテルさながらの豪華さで、その隣には畑や田んぼもあった。結果からいうとこの実験は失敗に終わった。実験開始直後、被験者の摂取エネルギーは平均2500kcalを維持していたが、6か月後には平均1700kcalに下降。原因は施設の立地が標高1000mの砂漠地帯であり、エルニーニョの影響で植物の光合成が低下したことだった。また微生物や施設構造材による計算外の酸素消費によって、酸素と二酸化酸素のバランスが崩れた影響もあった。
写真提供/(JAXA)小口美津夫
可能性を高める大気の存在
「いま世界的に宇宙開発の潮流は火星へと向かっています。いずれ火星に基地や住居ができる?可能性のない話ではありません。なぜ火星に注目が集まっているのか。火星には大気があるからです。といっても地球の大気とは成分が違います。火星の大気は95%が炭酸ガス(CO2)。しかしこれは非常に利用価値があります。炭酸ガスに水素を混ぜてサバチエ反応と呼ばれる化学反応を起こさせると、水とメタンガスを作り出せます。水が有用なのはもちろんのこと、メタンガスはエネルギー源として利用できます。それにメタンガスは炭酸ガスよりも約5倍の温暖化効果があるので、火星をどんどん温められるかもしれない。といっても火星の平均気温は-60℃なので、そう簡単にはいかないでしょうけれど。地球の平均気温が18℃だからずいぶん過酷な環境ではありますね。ただ重力も地球の3分の1ほどありますから、かなり有望な惑星だといえます。よくイラストやアニメで火星基地の想像図が描かれますが、大体が地表に建造物がありますよね。あの描写を実現するのはなかなか難しいかもしれません。なぜなら地表には強い放射線が飛び交っているので、人類がもしも火星に移住するとしたら地下基地や地下住居という形になるでしょう。いずれにしても現在は宇宙での水再生技術が長足の進歩を遂げています。さらに言えば、人間が排出する有機廃棄物や有機廃水をクリーンな空気や水に再生する技術も進められています。火星に人類が滞在できるのはいつになるか、それは確定的ではないですが、“やがてきっと”というレベルで火星移住への扉が必ずや開くはずです」
profile
小口美津夫/JAXA研究開発本部研究アドバイザー。1984年から宇宙に地球生態系を人工的に創る閉鎖生態系生命維持システムの研究に携わる。宇宙での食糧生産、また水と空気をリサイクルする技術研究の他、有機的なゴミを水に変えるシステム開発に成功している
画像提供/JAXA(火星基地CG)
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