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昨日のコーヒーを今日のコーヒーに

再生した純水を美味しくする
 かつてスペースシャトルが飛んでいた時代、乗組員は電源である燃料電池の副産物の水を飲用していた。この水はミネラル分を含まない純水だったため、非常に不味かったそうだ。
 現在国際宇宙ステーションでは、2008年からNASAが導入した水再生システムを使用している。クルーたちが排泄する尿を再生するこの装置は、集めた尿を減圧・加熱することで生じる水蒸気をコンプレッサーで凝縮し、それを冷やして蒸留水を作るというもの。原理的にはヤカンのふたの裏に水滴がつくのと同じ仕組みだ。この装置のおかげで「昨日のコーヒーを今日のコーヒー」としてリサイクルできるようになった。出した水分をまた飲んで、という循環が可能になったのである。しかしこのシステムにも少々欠点がある。再生水が美味しくない純水になってしまうことと、蒸留中にアンモニア成分が混入するリスクがあることだ。アンモニアは低温度で蒸発する性質を持つためである。そこでJAXAはアンモニアを電気分解し、高性能な逆浸透膜を使って浄化するシステムを開発した。逆浸透膜は0.1ナノメートル(=100万分の1mm)という細孔を持つ膜でできており、ほとんどの不純物を除去する。ただしこの装置も純水になるまで浄化してしまうため、浄化後にミネラルフィルタを通してミネラル分を添加して美味しい水に変身させるシステムを開発した。このあたりの細やかな配慮は、さすがMade in Japanの装置というべきだろう。

逆浸透膜で浄化した水はミネラル分も失われてしまうが、JAXA考案のミネラルフィルタに通せばミネラル分を添加できる。健康効果に優れたバナジウムもプラス!

  • 現在国際宇宙ステーションで稼働しているNASA開発の蒸気圧縮蒸留法を採用した水再生システム。クルーの尿を浄化し水を作るのだが、尿中に析出したカルシウム(Page05参照)によって配管が目詰まりしやすい難点もある
  • 国際宇宙ステーション内の水再生システムのメンテナンスには年間26時間が必要
  • JAXAが開発した水再生装置(地上実験用)。再生水にミネラル分を加える画期的なシステムが注目されている

写真提供/JAXA(水再生システム<WRS>のメンテナンス作業を行う若田宇宙飛行士)
※(NASA水再生システム 写真はJAXA小口美津夫提供)

火星移住を現実へ導く水再生システム

生ゴミから空気と水を作る
 今や宇宙で排出した生ゴミ(有機廃棄物)までも再生する技術が現実のものになりつつある。これまで生ゴミは地球帰還時の大気圏突入の際、大気との摩擦熱で燃やして処理をしていた。しかし生ゴミも有用なリサイクル資源と考え、生ゴミから空気と水を再生させる装置をJAXAが開発したのである。
 生ゴミと有機廃水を密閉式分解炉に入れ、高圧・高温処理をすると水と炭酸ガス(二酸化炭素のほか窒素、酸素も含む)に分解される。再生した水は無色透明でゴミのカスは残っておらず、有機物を形成した成分が残っているため肥料養液として活用できる。もちろん逆浸透膜で浄化すれば飲用も可能だ。いっぽう炭酸ガスのほうは酸素やメタンガスとして再生できるのだ。
 JAXAで水再生システムの開発を担当している小口美津夫氏はこう解説する。「生ゴミからの再生を可能にした〈湿式酸化技術〉を用いたこのシステムは、火星や月面に長期滞在するミッションに利用することを想定しています。肥料養液を生み出せるので、宇宙での食糧生産も視野に入れることができます。長期滞在ミッションでは、宇宙での廃棄物を極力余さずに再利用する技術が要求されるのです」
 無駄のないリサイクル環境が生まれればそれは宇宙に人工的な地球を創ったことに等しい。この“ミニマムな地球”が、新たなフロンティアのカギを握っている。そう考えて間違いない。

  • JAXA研究開発本部の小口美津夫氏が開発した最先端の水再生システム。「湿式酸化技術」によって生ゴミから水と空気を作り出す
  • 「湿式酸化技術」を活用した小口氏発明の水再生マシンを使えばこの通り。実験用の鶏糞に廃水を混ぜ、ルテニウムコーティングの酸化チタンを触媒に用いて高圧・高温処理をすれば、無色透明な無機水溶液へと生まれ変わる
  • 小口氏による逆浸透膜を使った浄化実験。ウーロン茶があっというまに透明な真水に変わった

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