国際宇宙ステーション(ISS)は、宇宙開発を目的とした巨大な有人実験施設であり、アメリカ、ロシア、カナダ、欧州11ヵ国、そして日本などが協力して建設を進め、運用を行っている。ISSには各国から選りすぐられた6人のクルーが、最高約1年という長期にわたって滞在し、地球とは隔絶した宇宙空間で生活をしている。
重力のない宇宙での生活は不便極まりないが、訓練されている彼らクルーにとってはさほど問題ない。それ以上に大変なのは生命維持に欠かせない物資の調達だ。生きるためには最低限、空気、食糧、水が必要。これらはすべて地上からロケットでISSへと運ばれている。さいわい空気は液化させることで1000分の1に圧縮でき、食糧もフリーズドライによって軽量化が可能だ。だが水だけは質量を小さくする手段がない。そのままの状態で運ばざるを得ない。つまり輸送が容易ではなく、それだけコストもかかるのだ。水は飲用以外に洗髪や歯磨きといった生活水の役割も求められるため、宇宙での生活水の使用は著しく制限されている。ほとんど“水を使えない”暮らしをクルーは強いられているといっていい。
写真提供/JAXA(ISSにおける洗髪方法について解説する古川宇宙飛行士、ISSにおける体の洗い方について解説する古川宇宙飛行士、若田宇宙飛行士「ISSでの日常生活の様子」、ISSのトイレの仕組みについて解説する古川宇宙飛行士)
国際宇宙ステーション(ISS)で働くクルーの飲む水は特別なものではなく、地球からロケットで運んだごく普通の水だ。地球上でペットボトル(500ml)の水を買えば、日本なら100円くらいだろう。これをそのまま宇宙に持って行ったらいくらになるか。計算上100万円もの価値になる。莫大な輸送コストがかかっているためだ。身近な例でいえば富士山頂の飲食物が、地上の数倍の値付けなのと同じこと。山頂まで運ぶ輸送コストが商品に上乗せされている。宇宙は富士山頂よりも遥か彼方。その分、上乗せ額は膨大になるというわけ。
宇宙空間では水がとても貴重だ。容易に補給できないため、クルーたちは最大限の節水を心掛けている。地上では日本人ひとりが入浴や洗濯も含めて1日に消費する水の量は約300リットル。いっぽうISSのクルーが消費できる水の量は1日わずか3.5リットル。この量は1日の飲用水2リットルも含んだ数字。洗髪や歯磨きといった衛生水はたったの1.5リットル分しかないのだ。現在ISSの中で行われているのは、水の節約だけではなく水のリサイクル。クルーたちが排泄した尿さえも再利用しているのだ。
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