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日本の近代水道の父 中島鋭治の偉大なる功績

中島鋭治(1858〜1925)
工学博士、東京帝国大学名誉教授。日本の近代水道の父と称される人物

もしも彼がいなかったら、上水道の普及が何年遅れたことか。かつてそんな凄腕の男が存在していた。




中島鋭治の略歴

  • 1891年 内務技師補に就任、東京市水道浄水工場を千駄ヶ谷から淀橋に変更する案を上伸
  • 1892年 淀橋浄水工場起工
  • 1893年 東京市水道工事掛長に就任、本郷給水工場起工
  • 1896年 東京市技師長に就任
  • 1899年 工学博士になる、東京市水道竣工
  • 1906年 八幡製鉄所水道設計監督、東京市技師長辞任

独自の鋭い視点で上水道を発展させた

1929年建造の野方配水塔。1966年に役目を終え、現在は中野区の災害用給水槽として活用されている 1931年、板橋区に建造された大谷口配水塔。1972年まで使用され、2005年に取り壊され改築された

  日本で初めて近代水道創設に尽力したのは英国人技師パーマーだ。彼は1887年、横浜市に横浜水道を完成させた。いっぽう東京の近代水道の父といえば工学博士の中島鋭治である。1890年、当時の東京市に水道敷設を行うプロジェクトが持ち上がった。この大事業を取り仕切れるのは中島以外にいないと目され、当時欧米留学で海外にいた彼に即刻帰国を促したほどだ。当時は上下水道の技術を理解する者が少なかったが、2度外遊を経験し、欧米の土木技術を学んだ中島の学識は抜きん出ていた。それが東京市水道工事事業の指揮者として腕をふるえた理由である。彼が最初に行ったのは、すでに建設予定下にあった千駄ヶ谷の浄水工場と、麻布と小石川の給水工場の工事進行を中止させることだった。浄水工場を作るなら淀橋に、給水工場は本郷と芝に予定を変更させた。外遊帰りの34歳の若き中島は、自身の計画の合理性を市会や学会に猛然とアピールした。淀橋地区は東京で最も高く、玉川上水にも近く、本郷と芝の給水工場は淀橋上水工場を頂点に二等辺三角形に展開していることを理由に挙げた。自然流下配水の効率性を考えれば、この配置が最も有利だと持論を唱えた。中島の計画の正当性は、その後の東京の上水道の発展が物語っている。今でこそ淀橋浄水工場は取り壊されたが、本郷給水工場や芝給水工場は現在も活躍している。後年、中島は顧問業に就き、日本全国の都市計画・設計の指導者にもなった。中島に顧問を依頼した都市は東京市をはじめ、名古屋市、仙台市、鹿児島市、高崎市、長岡市などが挙げられる。もちろん東京府下の渋谷町もだ。かつて渋谷町にあった駒沢給水所の配水塔(P4)は中島が手掛けた。あの欧風モダンのデザインは、彼の海外留学経験が生かされている。他にも駒沢を含む東京3大配水塔と称される野方配水塔と大谷口配水塔も彼のデザインだ。

資料・写真提供/東京都水道歴史館

みなとみらい地区にある 日本最大級の地下給水タンク

観光客でにぎわう横浜市のみなとみらい地区には災害時に水道がストップしても多くの人の命を救うだけの水が蓄えられている

横浜みなとみらいの近未来的な街の地下に、これほどの給水タンクが眠っているとは驚きだ

タンクといってもこのように直径2600mmのダクタイル鋳鉄管を使い、管路内に水道水が滞留しない設計

50万人を想定した巨大タンク

 神奈川県横浜市西区と中区にまたがり、横浜港に面した「みなとみらい21」地区の地下には、日本最大級の災害用地下給水タンクが埋設されている。貯水量は1500m3を誇り、換算すると17万人が3日間過ごせるだけの水を蓄えている(1日1人あたり3リットルと計算)。災害用地下給水タンクとは、震災時に水道施設の機能が停止する場合を想定し、その場合でも住民の生命維持用に応急給水体制がとれる貯水タンクだ。日本最大級と話題になっているこのタンクは、高島中央公園の地下に埋設されており、口径2600mmにおよぶダクタイル鋳鉄管を使い、太い管路内で水道水が滞留しないよう工夫されている。竣工したのは平成16年度。実はこの災害用地下給水タンクの他に、みなとみらい駅周辺には他にも3カ所にわたって災害用地下給水タンクが埋設されている。ランドマークタワー近くのヨーヨー広場の地下に1000m3のタンク(平成4年度設置)が、臨港パークの地下に700m3(平成5年度設置)、新港パークの地下に1300m3(平成11年度設置)と、みなとみらい地区の災害用地下給水タンクの貯水量の総計は4500m3にものぼる。この量は横浜市水道局によれば、観光客や帰宅困難者を含む地区内外からの避難者50万人/3日分の飲料水に相当するという。東日本大震災以前からこれだけのプロジェクトを推進しているとは、横浜市の災害意識の高さには頭が下がる。

給水のしくみ。災害用地下給水タンクは、通常は配水管の一部として水道水が流れている。
災害時には緊急閉止弁が働き、飲料水がタンク内に貯留される構造になっている


取材協力・資料提供/横浜市水道局事業推進部 横浜の水プロモーション課

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