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水神の神話と伝説

中国では、龍は強大な力を持つことから王権の象徴とされた。そのため宮殿の装飾や、皇帝の衣服の紋様に龍が採用されてきたのだ

「龍」と水神

龍に祈る文化は中国直伝

龍は中国に端を発する神話上の生き物であり、水との関係が密接だ。戦国時代から漢代に書かれた『管子』には「龍は水から生ず」と記され、同じく戦国時代に成立したとされる『春秋左氏伝』にも「龍は水物なり」という記述が残されている。龍と水の関係を如実に表わしているのは、龍の頭には博山(はくさん)と呼ばれる肉の盛り上がりがあり、そこに力の源の尺水(せきすい)を貯める ことで自由に空を飛べるという説話だ。このことから、龍は水を招き寄せ、雨や洪水を呼び込む生きものと中国では長く考えられてきたのである。例えば黄河の洪水や日照りの際には、黄河の龍神と見なされている河伯(かはく)に牛や馬を生贄として捧げ、河の氾濫や慈雨を祈った歴史がある。この一種呪術的ともいえる中国の祈祷文化は、日本には仏教と共に伝来した。日本の朝廷が降雨や止雨を祈願し、吉野の丹生川上神社や京都の貴船神社に馬を奉納したのも、中国の伝統儀式を受け継いだものなの である。

河童は日本人の水神信仰の中から、擬人化された生きものとして誕生し、古くは図画や古典、近現代はマンガの中にまで登場するようになった

「河童」と水神

成り立ちは龍から来ている?

日本で水神を語る上で、龍と並んで必ず登場するのが河童である。伝説的な生きものとして、古くから口伝されてきたように思えるが、『古事記』や『日本書紀』にその姿は見つけられない。 そればかりか奈良、平安、鎌倉、室町の文献にもほぼ見当たらないといっていい。成立したのはどうやら江戸時代になってからと謂われている。河童は予想以上に新しい伝説上の生きものといえるのだ。 河童が創出された大元は、龍であるという説が色濃い。前述の通り、龍は頭に神水を蓄え、生命力を得ると謂われている。これは河童も同様だ。頭の上のお皿が乾くとたちまち力を失くすという定説は、龍とまるでそっくりだ。 民俗学者の大家、柳田國男は、「河童は水の神が零落したもの」と考えていた。だから時に、いたずらや悪さをするというわけだ。しかしその人間味を帯びた風体や行動が、より庶民に親しみを覚えさせたのも事実である。忌避される以上に、どこか憎めないキャラクターとして愛されてきた面も大きい。 宮城県の磯良神社のご神体は河童である。地域の人から「おかっぱさま」と親しまれている。河童を祀る神社は日本中にあり、茨城の手接神社、高知の河伯神社、佐賀の潮見神社などは河童を神格化し、手篤く祀っている。

恋の水神社の御祈願方法は非常に個性的だ。神社の清水「恋の水」を、願い事を書いた紙コップに入れると想いがかなうとされている

「縁結び」と水神

恋によく効く水神神社

神社に参る目的は、健康長寿、商売繁盛、家内安全などのご利益を得るためという人が多いはずだ。今挙げたご利益の他に、老若男女問わず気になるのは「縁結び」ではないだろうか。縁結びをご利益とする神社には、水神神社が意外に多い。なぜなら水は命の源であり、心身の穢れを洗い流し、気持ちを新たにする力があるとされるからだ。先に紹介した「貴船神社」も縁結びの神社として有名だ。同神社の本宮と奥宮の中間にある結社には、縁結びの神である磐長姫命(いわながひめのみこと)が祀られており、かつては平安時代の歌人、和泉式部も不和になった夫との復縁を祈願したことでも知られている。 愛知には「恋の水神社」という、非常にストレートな名前の神社もある。 祭神は水神として有名な美都波能女命(みづはのめのみこと)。この神は、丹生川上神社の祭神、罔象女神と同じで表記が違うだけである。  他にも縁結びのご利益がある神社としては、龍神信仰のある箱根の「九頭龍神社」や、霊水〈神鏡水〉を地下から湧出している滋賀の「御沢神社」、イザナギとイザナミの夫婦神を祀った熊本の水神神社「浮島神社」などがある。もちろん全国にはまだまだあるので、ぜひとも探して訪ねてみてほしい。

■取材協力/隅田川神社、丹生川上神社、貴船神社、竹生島神社、墨田区役所広報
■参考文献/「龍の起源」(紀伊國屋書店)、「龍伝説」(NHK出版)、「ニッポンの河童の正体」(新人物ブックス)、「河童アジア考」(彩流社)

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