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貴船神社

絵馬発祥のゆかりを持つ神社

平成17年に造り替えられた本殿。元々本殿の鎮座地は700m上流の奥宮だった。1055年に現在の場所に移築された

西へ足を伸ばしたからには、ぜひとも寺社仏閣がひしめく京都へ足を伸ばしたい。予想にたがわず、京都には歴史ある水神神社がある。その代表格と呼べるのが貴船神社だ。
叡山電鉄鞍馬線貴船口駅を降り、鴨川の水源にもなっている貴船川に沿って遡ること徒歩30分。商売繁盛や心願成就、縁結びのご利益があるとされる貴船神社にたどり着く。ここが全国に約450社ある貴船神社の総本社だ。降雨、止雨を司る高神(たかおかみのかみ)が祀られ、万物の生命を支える水源の神様として篤く信仰されている。
貴船神社の創建年は不明である。確かなのは、666年に社殿造り替えの記録があることだ。社殿は本宮、結社、奥宮の3か所に分かれており、いずれも貴船川沿いに建てられている。
前頁の丹生川上神社同様、二十二社のひとつに数えられ、古来、晴れを願う時には白馬が、雨を乞う時には黒馬が天皇から奉献されてきた。しかし度々祈願が行われたことから、生き馬に代えて馬形の板に彩色した「板立馬」を奉納した事実が平安時代の文献に残されている。この板立馬こそが、今日の絵馬の原型になったと謂われている。

本宮へ続く石段の参道。両側に並ぶ朱塗りの灯籠が出迎えてくれる。夜は明かりが灯り、いっそう美しい

本殿横の手水舎には、冷たく清冽な水が満々と貯まり、その水に触れるだけで心の奥までも洗われる気持ちになる

本宮の社殿前の石垣からあふれ出す御神水は、貴船山の湧き水。「これまでに一度も枯れたことがありません」と宮司の高井和大氏

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御神水に浮かべると、文字が次第に浮き出てくる

箱から1枚選ぶ。普通に見ただけでは文字は見えない

貴船の「水占みくじ」

水神を祀る貴船神社ならではのおみくじがある。そのまま見ただけでは何も書かれていないおみくじだが、拝殿横の御神水におみくじを浸けると、水の霊力によって神様からの有難いご託宣が浮き出てくるのだ。訪れた際はぜひお試しいただきたい。このおみくじは、水が乾くと再び文字が見えなくなるから不思議だ。1枚200円。

「おかみ」の文字には深い意味がある

本宮と奥宮の中間に位置する結社に、「天の磐船」と呼ばれる船形の自然石がある。長さ3.3m、重さ6トン。貴船の山奥で発見されたという

本宮で宮司の高井和大氏にお会いすることができた。貴船神社の歴史や成立ちが書かれた資料はたくさんあるが、宮司さんから直々に興味深い話がいくつも聞けた。手始めに、本殿に祀られている高神(たかおかみのかみ)の「」の文字に隠された深い意味を教えていただいた。
の一文字でオカミと読みます。水が湧き出す処という意味があります。実際に拝殿脇から水が湧き出ています。 本宮から貴船川沿いに700m遡った奥宮には、闇神(くらおかみのかみ)が祀られています。やはりそこからも水が噴き出しています。このという文字を解体すると、〈雨〉と〈口〉が3つと〈龍〉という文字で成り立っていることがわかります。3つの〈口〉は土器を表しており、龍神様に土器で供え物をして雨を祈っているという形を体現しているのです。だから貴船神社は、古くから祈雨止雨を願う神社とされてきたわけなのです」
は標準漢字ではないが、非常に神聖な意味を持った文字なのだ。さらにはこんな豆知識も教えてくれた。
「家庭の主婦をオカミさんと言うでしょう。あれはこの(おかみ)が語源なのです。家庭において水回りを取り仕切る女性が我が家のオカミであることからオカミさんと呼ぶようになったのです。主婦というのは、つまりご家庭の水神さんなんですね」
貴船神社の語源についてもご解説いただいた。明治4年に貴船神社と表記統一する以前は、「黄船」「木生嶺」「氣生根」など様々な表記が充てられてきた。黄船は神武天皇の皇母である玉依姫命(たまよりひめのみこと)が黄色い船に乗り当地に遡上し、水神を祀った伝説が由来している。
「また〈木生嶺〉は、山々の木々が雨水を蓄えて田畑を潤す源になっていることを表し、〈氣生根〉は万物の気力を生じさせる水の根源地であることを表しています。私の考えでは木生嶺がしっくりきますね。自然の神々を敬う心が最も表現できている気がします」 
いずれにしても水こそが生命の源であり、水と共に生き、水を崇敬するいにしえの人々の思いが、ここ貴船神社に結実していることがよくわかる。

奥宮に、別々の根を持つ杉と楓が合体した珍しい神木がそびえている。「連理の杉」と呼ばれ、夫婦円満の象徴として崇められている

奥宮と結社の中間地点にある「つつみヶ岩」。貴船石特有の紫色の輝きを放つ。高さ4.5m、重さ43トンもある巨岩だ

本宮より700m上流に鎮座する奥宮。創建年は不明だが、伝説によれば約1600年前と謂われている。本殿の下には御神体とされる龍穴がある

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鴨川沿いの先斗町には、川床(かわゆか)を備えた料理屋が何軒も続いている

貴船神社のそばの貴船川には川床(かわどこ)をしつらえた料理屋が軒を連ねている

床(とこ)と床(ゆか)の違い

京都の夏の風物詩といえば、川床だろう。これを「かわどこ」と読むか、「かわゆか」と読むかで意味は変わる。「かわどこ」は貴船川の低床式の床で、まさに川の真上に床を敷く形式を指す。いっぽう「かわゆか」は鴨川沿いに見られる高床式の床のことで、川の手前にせり出した座敷をいう。どちらも料理屋や茶屋で体験でき、それぞれに風情がある。

■ 所在地:京都府京都市左京区鞍馬貴船町180

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