「昨年度、環境省が行った水力発電のポテンシャル調査によれば、国内には1400万キロワットを生み出す潜在能力があるそうです。この数字は既開発のダム式発電所なども含み、経済性も度外視した数字なのですが、それでも現実レベルで考えるとまだ300万キロワットは産み出せそうなんです。原発に換算すると、もちろん規模にもよりますが、大体3基分にあたるでしょうか」
小水力発電のシステムはごく単純なのだ。水が安定的に流れている場所に、小型水車を擁した発電機を設置するだけでいい。発電機の水車の形式は、水の流速や流量に応じ、最大限の効果を引き出すものがさまざまある。ペルトン水車、フランシス水車、クロスフロー水車、プロペラ、開放型水車などだ(詳しくは下の解説をご参照あれ)。
ちくし発電所(福岡県筑紫郡那珂川町・550キロワット)の水車・発電機 ※ケーシング:金属製の覆い
下湯ダム清和水力発電所(熊本県上益城郡山町・190キロワット)の水車・発電機
※シロッコファン:多翼式ファン
別子山発電所(愛媛県新居浜別子山・71キロワット)の水車・発電機
白川村小水力発電所(岐阜県大野郡白川村大字平瀬・150キロワット)の水車・発電機
さらに松尾さんは、小水力発電の長所を挙げてくれた。
①昼夜、年間を通して安定的な発電が見込める
②設備利用率が50〜90%と高く、太陽光発電と比較して5〜8倍の発電力
③出力変動が少ない
④経済性が高い
⑤未開発の包蔵量がある(約300万キロワット分)
数え上げられる長所は多い。しかしなお小水力発電が加速度的に普及しないのは、前頁でも述べたように、地域の人々が周囲に流れている水の潜在能力に気づいていないことと、もうひとつは認可手続きが煩雑であることが挙げられる。
「正直、法的手続きに手間がかかります。申請許可が下りるまで少なくとも1年はかかるでしょう。国や市町村のコンセンサスを得るのは、なかなか面倒なのです。それをクリアしていく情熱があるかどうか。それをまた誰が先頭を切って行うのかがカギですね」
ひとつの導入事例として、山梨県都留市に設置された小水力発電所(写真は下に掲載)が設置されるまでの経緯を紹介したい。
都留市では、市政50周年を記念して、市民から建設費を募るミニ公募「つるのおんがえし債」を発行し、2005年に市役所から小学校を流れる家中川(かちゅうがわ)という農業用水路に、落差約2mの小水力発電所を建設した。家中川小水力市民発電所「元気くん1号」と名付けられ、全国各地から注目を集めている。
2010年には「元気くん2号」を設置、現在も「元気くん3号」を建設している。さらに元気くん4号からは、市民主導で行う予定もある。
発電された電気は発電所がある敷地内の市役所で使われている。電気代が浮いた分で、債権を持つ市民に利子をつけて返還しているのだ。また隣接する小学校の生徒にとっては、環境学習の材料としても活用されている。この発電所は市が先頭を切って主導し、市民が協力することで実現した好例だ。
多くの地域が都留市のように地域の人々が一致団結して小水力発電に取り組めば、小水力発電の未来はきっと明るい。
小水力発電導入事例の象徴的存在、「都留市家中川市民発電所 元気くん1号」。都留市と市民が一丸となって誕生した小水力発電所だ。2005年10月より運転が開始された。市役所の電力の約3割を賄っている。都留市を流れる家中川の流れを動力とし、開放型下掛け水車を採用している。これは1m〜5m程度の落差の非常に低い場所で使われる水車だ。古典的な水車同様、水の流れで水車が回る。
続く2010年に作られた「元気くん2号」。こちらは開放型上掛け水車を採用。水車の上から落ちてくる水をブレードで受け、その力で水車が回転する。どちらの元気くんも、休日や夜間などに作られた余り電気は、電力会社に売電される仕組みになっている。
取材協力■全国小水力利用推進協議会(http://www.j-water.jp)
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