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針江の各家々に水が湧き出す「かばた」があり、そこには水の浄化をお手伝いする鯉などの魚が飼われている

「かばた」の想い

使った湧水を鯉が浄化する

家庭に据えられた壺池に湧水を貯め、生活用水として使うことで出た残飯や食べカスを端池に飼われた鯉が食べる。こうして浄化された水は水路を通って川へ流れていく

「かばた」とはどういう仕組みなのか。資料をひもとくよりも、地元の人に聞くのが早いということで、『針江生水(しょうず)の郷委員会』でガイドを務める福田千代子さんに尋ねてみた。 福田さんはここ針江に子供の頃から暮らしている住人のひとりでもあるのだ。 「もちろんわたしの家にも"かばた"がありますよ。さあさあ、ぜひ見ていってくださいね」 母屋の目と鼻の先にある離れの小屋の中からは、水の溢れ出すような音が聞こえてくる。小屋の中に入るとそこはひんやり涼しく、清澄な水が絶え間なく湧き出ていた。 「針江の湧水は地下に鉄管を約20m打ち込んで汲み上げています。湧水は各家庭に引き込まれていて、最初に壺池と呼ばれる水槽に貯められます」 壺池にはキュウリ、ナス、トマトといった夏野菜が浸されていた。

かばたは針江の人々にとって神聖なものなのだ。だから家を取り壊すことがあっても、かばたは壊さないで残す

「湧水をわたしたちは生水(しょうず)」と呼んでいます。 水温は年間を通して常に13〜14℃。夏には冷たく、冬には温かい温度です。夏場は野菜や果物を冷やすにはうってつけなんです」 壺池はその他に、野菜を洗ったり、汚れた食器を洗うために使われる。「壺池の水は、その周囲にある端池に溢れ出ます。 端池にはどの家庭でも鯉などの魚を泳がせていて、食器から出た残飯や食べカスを鯉が食べてくれるんです。自然の浄化システムですね」 水は魚たちによって浄化され、再び川へと戻っていく。だから針江に流れる水路も川も、水は透明で美しいのだ。福田さんに食器洗いに洗剤は使わないのですかと聞いたら、「鯉は家族の一員。そう思えば洗剤は使えないです」と即答された。こうして鯉などの魚に浄化されたかばたの水は、針江大川に集まり、そこから琵琶湖へ注ぎ込む。「つまり下流には、かばたの水を使う人がいるわけです。その人たちを思いやるこころが、水を汚さずに自然に戻す意識につながっていくんです。また下流の人は、わたしたち上流に住む人を信頼して水を使うというわけです」人と人との信頼の絆は、きれいな水 を通して強く深く結びついているのだ。

正伝寺の中にある亀ケ 池も、湧水で水をたたえる池だ。鯉や虹鱒、鮎が泳ぎ、水の透明さゆえに姿がよく見える

針江にある平安時代に開かれた曹洞宗正伝寺の境内には、10カ所で湧水が湧き出ている。むろん美味しく飲める

「かばたは母屋のすぐそばの小屋の中に作られています」と福田さん。かばたで冷やされたトマトをもらった林さん、「わあ冷たい!」とびっくり

福田さん宅のかばた。丸いのが壺池で、そのまわりで鯉が泳いでいるところが端池。水は驚くほど透き通っている

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