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vol.11 節水の心
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動物にも植物にも節水名人っているもんだ 動物の戦略:ラクダもすごいが、もっとすごいやつがいる
 動物界の節水王といえば、まず挙げられるのがラクダだろう。砂漠地帯や雨の少ない地域に生息するため、長期にわたり水を摂取できないことを想定した対策をしている。それがの背中のコブだ。
 ヒトコブラクダとフタコブラクダがいるがそれは同じこと。コブは脂肪の塊で、この脂肪をエネルギーに換えるときに、体内で代謝水という水に変 換することができるのだ。激しい労働と暑い環境下になければ、体重の40%を失いながら、半年から10ヶ月間水を飲まずにいられる。
 水分を放出しない対策もしている。灼熱の土地を歩くときは、みずから体温を上昇させるのだ。そして無駄な汗をかかないようにし、水分の保持につとめる。
さらに驚くべきことがある。ラクダは休息中、つねに太陽の真正面に対峙して座るのだ。日光を体の側面で受けると、照射面積が増えるからである。正面なら照射面積が少なくなる。そうやって、不要な体温上昇を避け、無駄汗をかかない工夫を本能的に心得ている。とはいえラクダは、ここぞいうときに水をガブ飲みする。10分間に100リットル以上飲むことすらある。節水力も異常なら、摂水量も尋常ではない。うーんこれでは節水王とはいいがたい?
 と思っていたら、もっとすごいやつがいた。ラクダの王座危うし。北米に生息するカンガルーネズミである。体長10センチ足らずで、カンガルーのように後ろ足でピョンピョンはね回るこの小動物は、節水どころかまさに断水状態。生涯、水を飲まずにすごすのだ。なぜそんな芸当ができるのか。水そのものを体内で完全生産できるからなのだ。草食であるゆえに炭水化物を摂取する中で、炭水化物中に含まれる水素と、空気中の酸素を体内で結合させ、水を作ることができるのである。
 もちろん尿排泄だってするのだが、腎臓もまた節水に特化した機能を備えている。とことん尿素の濃い尿を作ることができるのである。したがってごく少量の尿で、体内の毒素を完璧に排出することが可能なのだ。まったく常識外の動物である。節水王の冠は、もはやカンガルーネズミに譲ってもいいかもしれない。

植物の戦略:多肉の気孔は夜開く。乾かないために
植物はC3型、C4型、CAM型という3つのグループに分けられるなにやらいきなりむずかしそうだが、これは光合成のタイプによるグループ分けでる。この中でCAM型は、見事に節水を実行しているといえる。
 そのCAM型を説明するためには、まずC3型から説明しなければなるまい。C3型の光合成をしている植物は、ほとんどすべての植物だといっていい。およそ9割の植物がC3型光合成をしている。
 C3型とは、われわれが小中学校の理科の授業で習ったごく一般的な光合成方法である。植物は日中、葉の裏にある気孔を開き、二酸化炭素を取り込み、太陽光を浴びることで糖やデンプンを作る。そのときの副産物でる酸素や水分もまた気孔から放出している。かつて学んだ記憶が呼び起こされただろうか。
 もうひとつのC4型に分類される植物とは、トウモロコシやサトウキビだ。高い二酸化炭素濃縮機能を備えている植物がこれにあたる。そのためC3型にくらべ、約2倍の効率で光合成ができる。高温乾燥した過酷な地域でも生育できるし、生育速度も速いのが特長だ。  さてそのいっぽうで、節水を実践しているCAM型は特異だ。昼間に二酸化炭素を取り込まないのである。夜な夜なこっそり気孔を開き、二酸化炭素を吸収し、それをいったんリンゴ酸に変質させ、液胞という袋に保存しておくといった面倒なことをしている。そして昼間になったら気孔を一切閉じたまま、リンゴ酸を分解して得られる二酸化炭素を使って、太陽光を浴びつつ光合成をはじめるのだ
 このCAM型植物にはどんなものがあるかというと、サボテンやアロエなどの多肉植物や、パイナップルが代表的である。CAMとはcrassulacean acid metabolism の略で、ベンケイソウ型有機酸代謝を意味する。ベンケイソウもまた、多肉植物である。これらの植物はもっぱら乾燥地帯に生息するため、気温の高い昼間に気孔を開くことが自殺行為だとわかっている。不用意に蒸散し、水分を喪失しまいとしている。乾燥を少しでも避けるため、地道な節水を行っているのだ。
 
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