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vol.11 節水の心
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未来の水不足を救うか海水淡水化施設  地球は水の惑星といわれるが、そのうち97.5%が海水である。つまりほとんどが利用できない水なのだ。淡水はわずか2.5%。その淡水でさえ、 氷河になっていたり、汚染されすぎていたりで、利用できるはさらに少なく 0.007%しかない。地球を正確に言いあらわすならば、“ 使えない水の惑星” なのである。
しかしここにきて水不足の危機を救う技術が熟成しつつある。海の水が飲め るようになりそうなのだ。いや、なっている。海水があっという間に淡水になる施設が本格的に稼働を開始したのだ。
 これまでも、海水を淡水化する方法がなかったわけではない。しかしコストが見合わなかった。これまで主流だった方法は、蒸留法というもので、海水を熱して得た水蒸気を集めるものだった。これでは、熱エネルギーもかかるし、量を得るのに時間もかかった。
 2006年、福岡市に完成した『海の中道奈多海水淡水化センター』は、最先端の技術を導入したローコスト造水を可能にした海水淡水化施設である。
「じつは30年以上も前から淡水化施設はあり、その後もいくつも作られました。ただ  造水力が少なく、あまり実践的といえませんでした」と技術係の丹生和則さん。
大規模な造水量を初めて実現したのが、平成9年に沖縄本島に作られた施設である。造水量は日産約4万トン。しかしこの福岡の施設での造水量は、1日最大約5万トンを誇る。この水量は、福岡都市圏の水道使用量3割分、25万人の使用量に相当する。「もちろん日本最大規模になります」 単純計算すれば、この施設があと約3倍強の規模さえあれば、福岡都市県の水道水がまかなえてしまう。しかし、そうはしない理由がある。それは後に述べよう。

海の中道奈多海水淡水化センター 2005年より稼働している日本最大規模の淡水海水化施設『海の中道奈多海水淡水化センター』。
敷地面積は約46000 。
ヤフードームの約1.3 倍の大きさだ

深海の圧力を加える
 世界には大小あわせて7500の施設がある。そのうち3分の2が水不足にあえぐ中近東に存在している。
ちなみにこの福岡の施設は世界で上位にランク付けされる規模である。
「けれども、淡水の回収率は世界一かも」 淡水を得るためには海水をろ過膜に通すのだが、真水と塩にくっきり分けられるわけではない。真水とより濃縮された海水に分かれるのである。したがって、丹生さんは“ 淡水の回収率”といったわけである。
 高圧逆浸透装置の中は、RO膜という真水しか通さない セルロース系の膜で作られたストローが、束になって詰 まっている。直径わずか0.14のストローがぎっしり詰め込まれていると想像いただきたい。
 「この並べられたストローとストローの隙間に海水を流し ます。そして海水に、840m潜ったときの水圧に匹敵す る圧力を加えます。するとRO膜を通って、いわばストローの中に水が侵入していくのです」
このとき、ストローの中にしみ込んだ水は真水であり、ストローの外側に残った水は塩分濃度の濃くなった海 水になっている。そうして真水だけを分別して取り出せ るのだ。
造られた真水は、塩分だけでなく、水に含まれる成 分が全部抜けてしまうので、それだけで飲むと水道水ら しい味がしない。
 「これがすべての水を施設で造らない理由です。水の味を調整するために、水道水とブレンドして給水しているの です」
海水から塩辛さがなくなる。ということは人間が、いや人 間ばかりでなく、地上の生きもののすべてが、生命保持のために活用できる、という意味である。地球が「使え る水の惑星」になるのも、もうすぐかもしれない。だからといって節水意識を薄めてもいいといっているわけではない。海水淡水化施設を稼動させるにもエネルギーコスト はかかる。海の水を利用しなければならない時代になった現実を、圧倒的に憂えるべきである。
高圧逆浸透装置
これが海水淡水化の心臓部、高圧逆浸透装置。 筒状になった内部には、海水の塩分を取りのぞける高性能なRO 膜が、ストロー状になって詰め込まれていて、真水を得られる
高圧逆浸透装置の内部構造
高圧逆浸透装置の内部構造。中心に海水が流れる管が通され、その周囲をRO 膜で作られたストローがびっしり詰まっている
UF膜ろ過装置 海水を淡水にする高圧逆浸透装置に原水が送られる前段階でも、じつは1 度ろ過の工程を経ている。 UF膜ろ過装置というもので、原水に含まれる細菌や汚れを取りのぞいてる
 
高圧ポンプ 海水から淡水を得るためには、海水に高圧ポンプで圧力をかけ、RO膜という高性能の半透膜を通さねばならない。その圧力たるや、深海840mの水圧と同等なのだ
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