こちらのサイトでは水に関わるエピソードをお伝えしています。 バックナンバーへ SEDIA
vol.10
水に暮らす人 page page1 page2 page3 page4 page5 home

 山での雨は強烈です。稜線の小屋なんていまの世の中に雨をたよりの飲料水としているんですよ。僕だって、バットレス(岩壁)にとりついてるときなど、どうしようもなくて、岩のくぼみに貯まった雨水を飲むことだってあります。ボーフラをよけながら、ね。
 黄河、ナイル、チグリス・ユーフラテス、世界の文明が大河によって生まれたように、山の沢にもおなじことが起きている。植物が生え、そこに動物も集まる。森の沢は生き物にとって生命線なんです。僕は「リバートレッキング」という本を書きましたが、冒険はあっても、沢歩きには飲み水の心配だけはいらないわけですね。
 山には半端じゃなく雨が降る。鉄砲水って知ってますか。よく事故が報道されてお亡くなりになる方がいる。山の水のおそろしさを十分に知って欲しいと思います。鉄砲水を予測することはできるんです。いきなりくるように見えるが、注意深く観察すると、段階をへている。まずきれいな水が流れている。ついでささにごりという段階になる。ちょっと濁っている状態です。それから茶色に変わる。ついで、流木など普段流れないものが流れている状態となる。こうなるともう危ない。たいへん危険な兆候と言っていい。すぐに土砂を含んだ焦げ茶色の水に変わるはずです。
 先日小雨のなかを奥多摩の山に登ってきた。静かな山が楽しめました。人が少ないということもあるけど、雨に物音が吸収されて静かなんです。緑がとてもきれいでした。

◆こしがや ひでお 1947年生まれ。日本登山界にこの人あり。ヒマラヤ、南極・北極などの装備コーディネートでは右にでる人はいない。『山を楽しむ中高年の山歩き』(ナツメ社)、『はじめてのリバートレッキング』(ごま書房)、『オートキャンプに出かけよう』(実業之日本社)など著書多数。
ほぼ毎週どこかの山に登る。
年間だと100回の山行。
きょうもまたどこかの山へ。


 農家ちゅうのは、お天道さままかせじゃけぇー。お日さまも出にゃあいけんし、雨も降らにゃあいけん。
 わしは、生まれてからずっとここに居るけど、昔は家の前の田から山の方にかけてみな田じゃった。棚田ちゅうやつだねー。みごとなもので改めて考えてみればきれいな景色じゃった。そのときはただ仕事しとっただけだけんどねぇ。じゃが、機械も入らんような田じゃいけんちゅうことになって、圃場整備ちゅう事業があってみんな四角い大きな畑になってしもうた。いまでは手で田んぼをやるのはこのへんではうちだけになった。どうかねえ?手で作る田んぼはやっぱりきれいだと思わんかい?縁側から毎日眺めている。そうさ、庭とおなじだね。田んぼは庭さね。
 ごらんの通り棚田じゃけぇ、水が上から降りてこんと苗は植えられんし、今日できにゃあ明日やりゃあええ、くらいの気持ちで仕事しよったものだね。いまでもうちは、寝たり植えたりしとるよ。
 今年のように梅雨になっても雨が降らんようじゃぁ、雑草は伸びんけぇええけど、植えた苗の伸びも悪いんで、そりゃみんな困っとる。じゃが、ここは谷も深いし広葉樹がおいいけぇー、今年のようなときでも水が切れることはないの。やっぱり山は大事にせにゃぁいけんちゅうこんだよ。

◆あおき よしはる 1930年生まれ。島根県津和野、野中で農業を営む。曲線に縁取られた棚田が家の前に広がり美しい風景を作っている。
縁側からこのような風景を眺める。青木さんの棚田はけっして米の生産工場ではない。手入れの行き届いた鑑賞に値する庭園といってもよい。


Next
(C)Copyright 2005 WATANABE PIPE, INC. All rights reserved.